現在、「新型コロナウイルス陽性患者数」が毎日報道されています。しかし、皆さまはこの意味を正確に理解されていますか?
まず「陽性者数」についてですが、日本では陽性が疑われる患者にしか検査を行っていません。ですから、「陽性者数」を明らかにするのであれば、「検査数」と「陽性率」もしっかりと報道するべきです。日本は他国に比べて圧倒的に「検査数」が少ないので、「陽性率」が高いことが知られています。
それでは、なぜ検査数が少ないのでしょうか?それは、「コスト」と「検査法」によるところが大きく影響しています。「コスト」についてですが、日本では海外ではよく用いられる「プーリング法」が導入されていません。プーリング法とは、適当数(陽性率より算出する)のサンプルを複数混ぜて検査を行い、そのサンプルが「陰性」であれば「陰性」と判断する方法です。「陽性」と判断された場合のみ、個別サンプルについて再度検査する、という手法です。この手法を導入すれば、同じ検査回数でも検査数が飛躍的に増加するために、「コスト」も「時間」も削減が可能です。さらに検査キットや試薬は高価です。検査するサンプルが増えると、費用が増加します。追加予算がどうなっているのかは分かりませんが、通常予算ではまかないきれない負担が各都道府県にかかります。
次に「検査法」です。「PCR(Polymerase Chain Reaction)」とは、検査法の名前です。PCR法という手法は、ターゲットとなる遺伝子配列の一部分(今回では、新型コロナウイルスの遺伝子の一部分)を、耐熱性酵素(Polymerase)を用いて増幅させ、検出する手法です。増幅させるためには、プライマー(約1~30塩基で構成される、ターゲットとなる遺伝子に相補的な合成DNAのこと・サンプルがATGCだったらTACG)とサンプルをマイクロチューブ(PCR用の小さな試験管)に入れ、サーマルサイクラー(サーマルブロックと呼ばれる、チューブを入れるための穴が開いた温度を上げ下げするための装置)で3つの異なる温度帯(denature/ディネイチャー/熱変性/95℃前後・annealing/アニーリング/結合/60℃前後・extention/エクステンション/伸長/70℃前後)で繰り返し反応させること(Chain Reaction)によって、サンプルのDNAを伸長させます。サンプルのDNAが伸長していることが確認できた場合には、ターゲットとなる遺伝子が存在しているので「陽性」、伸長が確認できなかった場合には「陰性」と判断します。この3つの温度の繰り返しの回数を、Ct値といいます。Ct値は20~40に設定するのが一般的です。
「PCR法」では、A施設とB施設が、同じ「プライマー」と同じ条件「温度・時間・Ct値」を用いていなければ、検査結果は異なります。貼付したリンクは、国立感染症研究所において評価された「新型コロナウイルス検査キット」が掲載されています。ここに掲載されている物だけで36種類あります。https://www.niid.go.jp/niid/images/lab-manual/2019-nCoV-17-current.pdf
データを見ると、当然各社とも販売に値するすばらしい数値です。しかし、今回のターゲットとなる「新型コロナウイルス」は「+鎖一本鎖RNAウイルス」です。そもそも「RNAウイルス」は一本鎖なので、変異を起こしやすいウイルスとされています。それを36種類もある検査キットを自由に用いて、各都道府県の衛生研究所や保健所で、異なるメーカーのサーマルサイクラーで、技術に差がある担当者が検査していたら、同じ検査結果が得られるかどうか疑問が残ります。国として、「陽性サンプル」「陰性サンプル」「標準手順書」などを用意して、最低限度の検査基準を設けるべきだと考えます。
今回は少し難しい話ですが、大学で生物・医学・農学系に進もうと思っている方は必ず授業で習う内容となります。